渡辺健介『世界一やさしい問題解決の授業』

みんな何かを何とかしたい
今回は「47万部を突破!いちばん売れてる問題解決の本」と帯にある渡辺健介の『世界一やさしい問題解決の授業』ダイヤモンド社を取り上げます。前回自分を変える教室で授業を受け、今回問題解決の授業を受けるという流れです。自分で編み出すよりも多くの人がやってうまくいった方法をまとめてもらったものを学んだ方が早道ですが、さて……。
問題とは何か
ものの本によると、問題とは理想と現実の差のことをいうのだそうです。
ちょっと下のような公式を当てはめてみました。
問題=現実×n n=理想
理想nが0だといくら現実に0を掛けても答えは0という式になるでしょう。
つまり、理想がなければ問題はゼロとなります。
人は現実とは別に自分や他人や状況に対して「こうありたい」、「こうあるべきだ」と思うからこそ、そうでない現実を問題があると捉えるのですね。
この公式の現実には1しか入りません。現実はいつもひとつだけです。
ひとつの現実に対して理想はいくつ持つことができるでしょうか?
具体性を欠いた理想であればぶれていくつもの理想が見えても仕方がないでしょうけれど、たいていは1つなのではないでしょうか。
そうすると、答である問題(変な文章になってしまいましたが)はゼロか1しか存在しません。
あれもこれも問題だらけだと思うようなときは、細かい現実に細かい理想をひとつずつ持っているからなのでしょう。
理想をハッキリさせ、現実を正しく把握すればきっと問題は解決されます。
この本の主人公である「問題解決キッズ」と一緒に問題を解決する方法を学んでいけば、自分の問題を解決できるようになるでしょう。
どうしようもなくなる
他に、具体的な理想があるわけでもないのにただただ現状が辛かったり、とにかく嫌だったりする場合はどうでしょうか?
単なる不快感にいたたまれず、どうしようもない気分でいるということなどです。
それも、気が付いていないだけで現状以外に適切な状態があることをどこかのレベルでは認識しているから感じるものではないでしょうか。
現状とは現実のことであり、適切な状態とは理想のことですから。
漠然とした不安や落ち着かなさを感じることは、とくに思春期のころなどによくあるものだと思います。
この、どうしようもなさは、何が自分をそのように感じさせているのかわからないことからくる場合もあります。うまく言葉にできず、むずがる赤ん坊のように。
こんな時でも、問題を解決できるのでしょうか?
漠然とした不快感や不安をうまく言葉にして表現するだけでスッキリしてしまうこともあります。
問題があると認識して引き受けてしまうだけで解決した気分になることもあります。
言語化した諸々を具体的に解決すべく行動することで解決するのがほとんどだと思いますが。
さて、ここまで来て感の良い方はわかってきたと思いますが、問題解決には言葉がかかわっているのです。
帯にある「ロジカルに解決!」「学校では教えてくれない左脳力」というところの、ロジカルもロジック、つまり言語のことですし、左脳がつかさどっているのも言語的な活動です。
次回でこの本の面白さや活用のしかたをご紹介できればと思います。
キャラクターやタイプの面白さ
この世界一やさしい問題解決の授業の一時限目で、「こんな人を知りませんか」と問いかけられます。このキャラクター設定がとても秀逸です。心構えの問題点がとても端的にわかりやすく表現されています。
どうせどうせ子ちゃん:感情的な思い込みにとらわれていて先に進めないキャラクターです。
このタイプの心構えは、最初から完璧でなければならないと思い込んでいることです。失敗を恐れ、望む結果が出ること以外を受け止めることができません。失敗を糧にできない人は改善という宝物を手にすることができないので、評価が低く自信がないというところから抜け出ることができません。
アントレプレナーシップのある経営者の方々から最も遠いマインドですね。でも、新しいことを始めるときにこんな気分になってリスクを避けてしまうこともありますよね。
評論家くん:論理的のようで問題を自分のこととして捉えないキャラクターです。
このタイプの心構えは、自分以外の人やことを当てにしすぎることでしょう。真に論理的であればそれを何とかするのは自分自身であり、行動するしかないということに気が付くはずです。やる理由もやらない理由も山ほどあります。失敗を何のせいにすることも可能です。これも保身に回っているときになりやすい状態ですから、失敗を恐れているのかもしれませんね。
経営者の方々はこんな心構えでは事業が立ち行かなくなることは百も承知でしょう。むしろ社内に頭がよく優秀なのに評論家なタイプがいることにがっかりしていたりするのかもしれませんね。
気合でゴーくん:論理的ではなく行動力とやる気で何とかできると思っているキャラクターです。
このタイプの心構えはめんどくさがりです。じっくり考えることは面倒なことです。考えずに動いてしまえば片付いてしまうこともたくさんあるのは本当ですが、力ではどうしようもないこと、同じやり方では解決できないこともたくさんあります。取りこぼしている誰かの気持ちもあるかもしれません。
経営者の中にも心当たりのある方はいませんか?たたき上げでキャリアを積み上げるとこういった考え方をしてしまう部分があるかもしれませんよ。
詳しい説明はぜひこの本を読んでみてください。
そして、もう一つのキャラクターである「問題解決キッズ」に出会ってください。
変えるのも解決するのも「自分で」
前回の書評『自分を変える教室』で、自分を変えるのを阻害する要因は自分の説得に反抗してしまうからであり、自分が変えると決めた側ではなくその自分に変えさせられる側になってしまうことが原因ではないかと書きました。
問題を解決するのも全く同じセオリーだと思います。なぜ上手に問題が解決できないのかと言えば、問題の原因の一つは自分の選択であり、その責任分はきちんと負い、自分に変えられる部分があるかどうか検討することができないからでしょう。
どうせどうせ子ちゃんや評論家くんや気合でゴーくんには事実と思い込みを区分けするスキルが欠けているのではないかと思います。
心理学ではこういった固定観念や思い込みをイラショナルビリーフといいます。イラショナルとは「理にかなわない」という意味です。理というのは道理のことで、道によって変わります。何を目指しているか、目的地が何なのかで理が変わるのは当然のことです。
理想があるから、それが目的地になり、そこへ行くための道があり、時には迷子になり、迷子から脱して再び理想への道のりを歩き続ける。問題解決の姿ではないでしょうか。
この本には、その目的地を再確認する方法、迷子になった可能性を知る方法、新しい道筋を見出すための方法、自分の位置を知る方法など、たくさんのツールが詰まっています。
しかし、ツールはツールでしかありません。歩くのは私たち自身ですし、そのツールを使うことを決めたらその責任は自分にあります。上手にツールを使いこなして自分の力で問題を解決しましょう!
この書評は、元の掲載先から許可を得てこちらで再掲載しています。